国際ワークキャンプ名張

2008/4/24

ワークキャンプを受け入れて

赤目の里山を育てる会 理事長 伊井野 雄二

 今回のキャンプは11回目で、キャンプをはじめてから6年目に入りました。赤目の里山に彼等たち「NICE」のメンバーが来るきっかけになったのは、6年前の渋谷のNHK放送センターの前の広場で行われた「里地里山フェスティバル」に招待された時です。エコリゾート赤目の森の取り組みを現場で再現し、多くの人たちが楽しみました。藁ない機、石臼、ヒヨコ釣り、薪割、田植えなどを体験してもらい素朴な里山を知るきっかけにするような企画に参加しました。赤目の森の職員全員がワゴン車に乗り、東京まで出かけていきました。

 その時の主催者との交渉を担当したのが「里地里山ネットワーク」の竹田純一氏でかれもまだ取り組みの初期で新鮮な青年でした。そして、そこで隣に開いていたブースが「NICE」でした。私が若い青年に声をかけ、その仕組みを聞くと「交通費だけ負担すれば、海外で2週間滞在してボランティアできる」というのが、とても新鮮で、そんな取り組みをしている青年たちがいることにとても興味をもった訳です。その時の青年が小林君で、その彼も今はナイスを卒業し熊本で頑張っています。

 早速その仕組みを、赤目の里山に持ってくることを思いつき、すぐその夏に第1回のワークキャンプを実行することにしました。それ以後、大勢の海外からの青年や国内の青年たちが赤目に集まるようになり、赤目の里山保全には欠かせない存在となっています。

 では、彼等たちはどのようなシステムで赤目に来ることができたのでしょうか。全世界にネットワークを持つ「ナイス」は、日本国内にワークキャンプを開催したい受け入れ地を多数確保して、海外で日本でワークキャンプをしたい人たちに情報を提供します。また海外に出て行きたい青年たちに、海外の受け入れ地の情報を提供します。その情報の提供料、事務手続き代行、キャンプリーダー養成などの費用として、キャンプをする青年たちはナイスに支払いをします。キャンプに申し込みをして、予定の日に現地まで自分の費用で行き、そこで2週間滞在して、ワークキャンプを行います。滞在期間の費用は全て受け入れ側が行います。宿泊場所調理場所洗濯場所会議場所などの提供、食費や食材の提供、地元の人たちとの交流の紹介などを行います。

 1日500円くらいの食材費とすると10人で7万円くらいの出費となりますが、燃料、電気水道などなどの費用はバカになりません。それで、このような仕組みで、青年たちは集まってくるのです。しかも、気に入ると何度でもきてくれるのです。東京工業大学のsano君は、4回も来て、来年2月のキャンプに参加することも決まっているようです。今回は14人と多く、フランス、ドイツ、エストニア、韓国、日本の5カ国が集まり、にぎやかにキャンプが始まりました。

 仕事は、里山の概論の勉強、赤目の里山の体験、周辺の自然の体験などから始まり、里山の草刈、里道の補修、倒木の処理、田畑の草刈、野菜の手入れ、施設周辺の草刈、手入れ、看板の補修、薪割、薪運びなど多岐にわたる仕事を着実にこなし、立派な成果を得ることができました。

 14日間の内、休みは2.5日、地域交流が2日、入り出る2日、実質1週間が仕事ということになりますが、7日×14人は延べ人員としては100人規模の仕事ができるということになります。7台の草刈機、5台のチェーンソーで一斉に里山の整備に取り掛かる姿は壮観で、まるで「ラストサムライ」の突撃のシーンを思い出させるようです。ユンボにも乗りました。

 もちろん、生まれて初めて使う器械ばかりですから、充分に器械の説明を行い練習をして現場に出るのですが、みんな真剣でたくましい目つきになります。自分が頑張らなければ誰が頑張るくらいの思いが伝わってきます。半分は女性ですが、男も女もありません。混合油にまみれる彼等たちの姿をみて日本はこれからも安心、と感じます。9時から夕方5時まで途中昼休みを入れてしっかり働きます。

 最初のオリエンテーションのときに「仕事でないけれど遊びでもない」と伝えていますが、みんな最後まで頑張り抜きました。

 でも、2週間にはいろいろなことがおきます。仲間の一人が自分勝手な行動を取り、その責任を取り脱落してドイツに帰りました。また、途中で汲み取り式のトイレが満杯になり、雨の降る夜に、みんなでバケツリレーでくみ出しました。「これでみんな臭い仲」になったと喜んでいました。もちろん、肥えタゴ運びなど生まれて初めてで最後でしょう。

 彼らたちが自主的に考え出した「里山フェスタ」の第2回目が行われ、1回目を大きく越える参加者があり、「そうめん流し」がとても好評だったり、いつものバームクーヘンは本場のドイツ青年が驚いていました。薪割りも金魚すくいもゲームもみんな好評でした。フリーデーで、観光する行き先がまちまちになったり、いつ行くかで友情が壊れかかったり、また外国青年のカップルが出来上がり、この2週間のつかの間の恋なのか、それとも、遠距離交際を前提にしての付き合いなのか、など大いに話題提供してくれました。

 生まれて初めて「カラオケ」に行って一番はしゃいでいてたドイツ青年。イヤリングだけでなく、口輪、腹輪の青年でしたが、とても真面目でやさしい人柄でした。また、フランスの彼はとても凛としていて、規律正しく、美味しそうに食べることではピカイチでした。「ラーメン食べるときは、ずるずるという音を出さなければならないよ」というと、なかなか難しいとわらっていました。

 長そうで短い2週間は、このようないろいろな出来事であっという間に終わってしまいました。今回、初めての取組みになったのは、かれらの取り組みを紹介しながら、里山の素晴らしさを伝える講演会が地元の三重県立名張桔梗が丘高校で行うことができたことです。

 授業の一環として2時限の時間を当てて、初めに里山の伝道師の講演があり、あとはスライドや張り紙などを使って、ワークキャンプの具体的な取組みが彼等たちの演出によって伝えられることができました。生徒数およそ800名を前にして、赤目の里山のワークキャンプがこのような形で紹介されることになったことをとても喜びたいと思います。

 それには、この学校のPTAの役員であり、赤目の里山を育てる会の理事である吉田薫さんの企画提案がなければ実現しなかったということも特筆しなければなりませんでした。

 赤目の里山での青年たちとの2週間にわたる生活の基本は、自らが生活する地域を自らが良くしていくことに尽力する大切さを学ぶことだと思っています。ただの草むらを草刈してその全体像が見えてくると、それまで考えられなかった計画やアイデアが浮かんできます。一人ひとりの得意分野や関心のある分野で、個々の知識や技能が活かされるならば、自分たちの住んでいる地域は確実に豊かになり、多くの人たちの切実なニーズを実現していけるような多様で重層的な社会環境を手に入れることができます。

 新しい世紀21世紀は、そんなまちづくりが進んでいくことでしょう。選挙による民主主義という社会合議性のシステムは、一応完結しましたが、真の民主主義の実現は、投票という場の自己決定権だけに留まらず、社会や地域のあらゆる場において、自らが判断し決定して提言して、実行するようなそんな社会システムがあたこちに完成することになります。そして、そのシステムを構築していくツールとしてNPOやボランティアなどが有機的に結合し、大きなネットワークとして作用していくことになるのだと思います。

 今年の夏も、大きく成長した青年たちが各地で新たな挑戦をはじめています。キャンプが終わった次の日からフィリピンでの英語習得研修にいった青年たち。どんな暖かい思いで東南アジアの地で活躍しているかと思うと、胸が熱くなります。その彼等が、記念に残していった言葉

 「人が育て、人を育てたこの景観よいつまでも」

 里山とはそういう環境なのです。

Last updated : 2008/4/24

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